金沢旅行~冷汗三斗編~

 先日、金沢へ家族で一泊二日の旅行に行った。石川県に住んでいる母方の親戚(ご夫婦)がおり、案内してもらいながら観光した。さて、私の社交性は地を這うレベルであり、石川の親戚とは今まで1,2回しか会ったことがない。つまり、ずっと緊張しっぱなしで気まずい思いのなか胃が死にそうだった。そんな金沢の旅をお届けする。
 旅行前から不穏な雰囲気はあった。「計画を立てて旅行をする」というパッションを誰も持っていない家庭のため、私は家族で旅行に行ったことがあまりない。家に猫がいるという理由もあるが、それよりもワガママな上にマイペースな各人の嗜好の統率を取るのが途方もなく面倒という方が強い理由な気がする。そんな集団がホテルを決めたりルートを決めたりというのは至難の業だ。

~旅行1か月前のLINE~
母「観光したいとこある?」
私「兼六園と忍者寺。あと尾山神社とか?」
妹「美味しいもの食べたい。」
母「そうだねー。牡蠣のコース食べるよ。」
母「(親戚の人)さんと相談するね。詳しい話はまた後日!」

~旅行前日のLINE~
妹「てかどういうスケジュール??」
母「どこでも連れてってくれるって。リクエストある?」
妹「まだ決まってないパターンね。着いたらまずどこに行くの?」
母「お昼は牡蠣三昧で、そのあとはどーするのかな?」
母「兼六園のお庭を拝見して……。あとは?」
妹「牡蠣はどこで食べるの?」
母「(親戚の人)さんたちが案内してくれるよ。」

 

 普通、家族旅行ってこんな感じなのかな。主導しているはずの母がずっと疑問形なのなんなんだ。牡蠣を食べることしか分からない。父も含めて4人で行くのだが、このLINEグループに父は入っていない。どれほど情報共有されていたのか、まったく分からない。家族仲が悪いわけではないのだが、バラバラに生えてる草をヒモで束ねたくらいの距離感だ。
 金沢に集合し、金沢駅の象徴である鼓門で写真を撮って旅がはじまった。

天気は快晴 旅行日和

 

 親戚の方が車を出してくれて、牡蠣を食べに向かう。金沢市内は綺麗でいいよね。道が広くて平らで、電線も埋まっていて空が広い。中心部はブランド街があって豪華な雰囲気で、兼六園などの観光地もぎゅっと集まっていて周りやすそう。大通りから一本入るとどこか懐かしい風景で、観光地!という圧が適度に緩和されている。開発されてできたであろう新しさと、昔からあるだろう伝統が、無理なく同居している気がする。のんびりしている北陸の空気がそうさせるのかもしれない。
 海が見えてきた。あまり海と縁のない生活をしている我らは大はしゃぎ。海沿いの道を走っていく。見渡す限り一直線の水平線。

空と海と砂浜

 

 幼い頃、海と接する陸は全部砂浜だと思っていた。砂浜なのは意外と少なくて、崖とか岩場が多いと知った。だから「海水浴場」ってものがあるのか!と衝撃とともに納得した覚えがある。サスペンスドラマはだいたい岩場とか崖が登場することには何の疑問も持たなかったのに、幼い頃の思考はよく分からない。
 休憩を挟みつつ車は進む。車内では母と親戚の方が話している以外はほとんど無言で、カーステレオがよく聞こえる。妹は完全に寝ていた。こっちから投げれる球もなく、丸腰で座っている空間の気まずさ。気を使って話しかけてくれる話題も広げられず、二言三言で終了。そのことに恐らく車内の誰も気にしてないが、自分が一番気にしてる。この自意識との戦いでHPがどんどん減っていくのを感じる。いつの間にか車は山に入り、ぐるぐると登っていく。
 目的地遠いなあ!!!!!車に乗った時に「おなか減ったね~」的な会話があったからてっきり市内のどっかで食べるのかと思った。海を越えて、山にいるじゃん。目的地が分からないまま移動する距離ではない。運転してもらって、連れて行ってもらう立場では勿論そんなことは言えない。おいおいおいおいという気持ちを押し込んで、にこにこしてお行儀よく座っていた。
 能登穴水町に到着。能登!?私は金沢旅行に来たと思っていたが、石川旅行だったんだな。牡蠣はとても美味しかった。炉端焼き形式で殻付きの牡蠣を焼いて食べた。牡蠣フライと牡蠣ご飯も美味しかった。夢中で食べたので、写真はない。焼肉もそうだが、もう焼くだけで美味しい状態になっている食材を焼いて食べる行為ってどうしてこんなに楽しいのだろうか。カニ食べるとき無言現象と同じく、牡蠣中もみんな真剣だった。焼けるのを待つあいだも、真剣に待っていた。マイペース集団。
 行きがあれば帰りがある。満腹でうつらうつらしている時間があったので、行きよりはよかった。一直線の水平線に夕日が落ちていく。黄色の空とツヤツヤと輝く黄色の海。砂浜には誰もいなくて、夕日の中を海と砂浜がずっと続いていく。広い景色を見ていると、きゅっと縮こまった心がどろーんと広がっていく気がする。眠かったからかもしれない。妹は野球の話で親戚の方や父と盛り上がっていた。傍若無人なわりに懐っこいところがある、こういう性格になりたかった。
 金沢旅行改め石川旅行はよかった。これ苦手な場面だーと思っても、ぐっと踏み出して参加する方がいい。苦手なことは苦手なままで苦しい気持ちもあるけど、楽しさも味わえる。ぐったり疲れるから、休む時間も必要だけど。