金沢旅行~禍福糾縄編~

  前回の続き。連れてきてもらったくせに、勝手に無駄に神経をすり減らした1日目。美味しい牡蠣で満足満足。だが1日目はまだ終わっていないのであった―。
 ホテルまで送ってもらい、部屋でフウと一息つく。それも束の間、母がえげつないくらい腹を壊し、救急車を呼ぶまでの事態となった。母は丈夫なうえハートも強い人で、そんな人がこんなに弱るなんてヤバい事態ではないかという焦燥と、牡蠣って本当にアタるんだ……という衝撃で頭は真っ白、とまではいかないがオフホワイトくらいだった。ワタワタと119している間、いつも甘ったれな妹はホテルの人に話を通し、猫越しでしか母と会話しない父が母に励ましの言葉をかけていた。マイペース集団なのにすごい連携。家族、なんだなあと、不思議な納得感があった。
 すぐに救急隊が来てくださって状況説明をしたが、「まあまだなんとも言えませんが、牡蠣ってアタりやすいので……。」とのことだった。やはり牡蠣か。真っ青な顔で「大丈夫になったかも……。」と弱々しく抵抗する母をなだめながら夜間診療の対応をしてくれる病院へ搬送してもらった。病院でも十中八九牡蠣だろうと診断され、症状も落ち着いてきたし大丈夫だろうと薬を処方してもらい、ホテルに戻った。迅速な対応をしてくださった救急隊および病院関係者の方々には感謝の言葉しかない。
 母は大事には至らず、薬を飲んで一晩休んだら元気になった。全国旅行支援を使って宿泊したのだが、今回のことで、身分証明書とワクチン接種証明書を携帯していたのはよかったと思った。焦ると個人情報がスパッと抜けてしまう。ワクチン接種証明とか陰性証明とかがあるとスムーズかもしれない。こちらは憶測だが。そして旅行する際は保険証は絶対に携帯したほうがいい。人生何があるかわからないので。ずっと楽しみにしていた牡蠣にアタるかもしれない。
 先述したように母のハートは鋼鉄なので、翌日漁港の市場で牡蠣を見て「美味しそう~♪」と言っていた。市場で売られていたふぐの子(フグの卵巣のぬか漬け:猛毒であるフグの卵巣を伝統的な方法でぬか漬けにしたもの。なぜ解毒するのか解明されていない代物。怖い。)や、あんな目に遭ったにもかかわらず牡蠣や刺身に執着を見せる母をみると、毒かもしれないのに美味しさに負けて食べてしまう人類がこんなに繁栄してるのって奇跡かもしれない。好奇心旺盛すぎる。私は食中毒についてスマホで調べた際に12時間くらい潜伏期間があることを知り、もしかして私もこれから腹壊す可能性があるのかとビビり散らかしたので、旅行前からネット通販しようとしてた牡蠣をやめた。茨を切り拓く人もいれば、こういう人もいる。
 漁港の食堂では海鮮丼を食べた。

ウナギまで盛ってあった海鮮丼

 

 人気店で店の外に長い行列ができていた。窓が大きく、外から店内がかなりよく見えるタイプの店で、お腹をすかせたお客たち(我ら)がじっと店内を見ていた。お客は次から次へと増えて、私たちが入店しても行列の長さは変わらない。見られる側か、と思ったのは一瞬だけで、目の前に海鮮丼が来ると夢中になり食べたので何も気にならなかった。たくさんの種類の刺身を一挙に食べられる海鮮丼は最高!
 尾山神社金沢城跡、兼六園武家屋敷跡にも行った。

尾山神社の梅 ポンポンと咲く時期だった

 

 特によかったのは武家屋敷跡だ。

www.kanazawa-kankoukyoukai.or.jp

 江戸時代の風景が眼前にあることで時間の隔たりを生々しく感じる。刀を差した人がここを歩いていた時間が過去にあるというのは不思議だ。あんなに大きい刃物を持って堂々と往来を闊歩するなんて、今では考えられない。包丁でさえ台所以外にあったらびっくりする。道幅が割と狭く、辻斬られたら逃げられないなと思った。家屋は普通に住宅として使われているところもあるが、お店になっていて中に入れる場所もあった。九谷焼のお店は内装や商品がモダンな雰囲気で、それが武家屋敷群の中にあるので一層おしゃれだった。
 海と山、郷愁と今、そして美味しいものいっぱい。金沢は良いところだった。旅行にはトラブルもつきものだが、そういうときにいつも見えない意外な良いところが見つかったりする。まとまりがなくとも「やはり家族」というのが実感できたのは、安心するような重いような、でもホッとする気持ちだ。

 案内してくれた親戚の方が本当に良い方で、なのにウェーーイ!と盛り上がれずロボットのようなカチコチな反応しかできないのが心苦しく悔しく、楽しくて大変な旅だった。

 また行きたい。