2月18日は134340の日

 BTSの134340という曲が好き。タイトルの謎の数字の羅列は、かつて冥王星と呼ばれた天体の小惑星番号だ。この曲は「君」の心が「僕」から離れたことを、太陽系の惑星から外され番号だけの名前になった冥王星になぞらえて歌っている。めちゃくちゃロマンチック!曲調もオシャレで、歌詞もテクニカルで、最高。

 

134340 - YouTube


 聴いているうちに、天体への興味が湧いてきた。「冥王星って惑星じゃないんだって」「へぇ」くらいの興味しかなかった、冥王星こと準惑星134340についてもっと知りたくなった。

 

ざっくりな天体の種類
・恒星 
太陽のように自ら燃えて輝く星。地球から太陽系以外の星で肉眼で見える天体はだいたい恒星。月や金星や火星が輝いて見えるのは太陽が照らしているから。

・惑星
地球など恒星の周りを回っている天体。

・衛星
月など惑星の周りを回っている天体。

 

 冥王星は1930年、ローウェル天文台アメリカ人天文学者クライド・トンボーによって発見された。名前はローマ神話に登場する冥界の王にちなみPluto冥王星と名付けられ、冥王星は太陽系で最も太陽から遠い第9惑星として親しまれた。ディズニーキャラクターのプルートの名も、冥王星Plutoからとられたそう。太陽からの平均距離は約39.5天文単位(1天文単位とは太陽と地球の距離)で、約248年かけて太陽の周りを回っている。
 研究が進むにつれ、冥王星は想像以上に小さい天体だということが分かってきた。平均直径は2376.6km。これは地球の約5分の1の大きさであり、月の直径(3474.8km)よりも小さい。さらに冥王星と同距離のあたりに小天体が密集して存在していることが分かった。2003年には、太陽から冥王星の距離のさらに2倍ほどの場所にある天体2003 UB313が発見された。この天体は冥王星よりも遠くにあるにもかかわらず、冥王星よりも明るかったため、冥王星よりも大きい天体だと考えられた。
 この発見は「惑星」とは何かを問う大議論の一端となった。天体2003 UB313は「第10惑星」なのか。地球の衛星である月よりも小さく、軌道も他の惑星よりも17°傾き、楕円形をしている冥王星は果たして「惑星」といえるのか。議論の末、IAU(国際天文連合)は2006年8月24日に太陽系の惑星をこう定義した。

 

太陽系の惑星とは、
「太陽の周りを回り」
「十分大きな質量を持つために自己重力が固体としての力よりも勝る結果、重力平衡形状(ほぼ球状)を持ち」
「その軌道近くから他の天体を排除した」
天体である。

質問5-8)惑星の定義とは? | 国立天文台(NAOJ)

 

 冥王星の軌道近くには小天体が密集している、エッジワース・カイパーベルトという地帯がある。なので冥王星や天体2003 UB313は3つ目の定義に反するため、惑星でないと定義された。そして新たな「準惑星dwarf planet)」という分類がつくられた。

 

太陽系のdwarf planetとは、
「太陽の周りを回り」
「十分大きな質量を持つために自己重力が固体としての力よりも勝る結果、重力平衡形状(ほぼ球状)を持ち」
「その軌道近くから他の天体が排除されていない」
「衛星でない」
天体である。

質問5-8)惑星の定義とは? | 国立天文台(NAOJ)

 

 この決定により冥王星は惑星ではなくなり、小惑星番号134340になった。同じく準惑星に分類された天体2003 UB313は小惑星番号136199が割り当てられ、大きな議論のきっかけとなったことに由来して、ギリシャ神話の不和と争いの女神Erisからエリスという名がつけられた。
 冥王星の話から脱線するが、こういうエピソードを聞くと人間の勝手さにモゴモゴした気持ちになる。花言葉もそうだが、勝手にエピソードをつくって綺麗な名前をつけたり、悪い名前にしたり……。いや、そこにただあるものに意味を見出せるのが人間なのかもしれない。そういう傲慢さが逆に人間のいいところなのかも。それはそれとして、大発見なのに不和と争いの女神の名前は可哀そうなのではとも思う。
 冥王星の話にもどって。「惑星」ではないからといって、冥王星への学術的興味が失われたわけではもちろんない。IAUの決定より少し前の2006年1月、冥王星へ探査機ニューホライズンズが打ち上げられた。地球から9年半かけた旅の末、ニューホライズンズは高解像度の観測データを地球へもたらした。
 冥王星には窒素からできた薄い大気があり、表面は窒素とメタンの氷でおおわれている。メタンの凝固点は-183℃、窒素の凝固点が-210℃なので、冥王星の温度はそれよりももっと低い。太陽の光がほとんど届かない遥か遠い場所にあるので冥王星はとんでもなく寒い。
 そして真ん中に大きな白いハート模様がある。

 

solarsystem.nasa.gov


 これをハート♥と思って地形や記号以外の意味を考えてしまうのも、人間の想像力のおもしろさだと思う。それは置いておいて、このハート模様はへこんだ場所に窒素の氷河が流れ込んでできたと考えられているそうだ。肉眼で見えない、宇宙探査機でも9年半もかかるくらい遠くの天体で、今日も氷河が少しずつゆっくり動いているのってなんかスゴイ。

 太陽系の惑星から外されても、以前と変わらずに楕円の軌道で太陽の周りを回っている、-210℃以下のハートをもつ天体、小惑星番号134340のへのミニミニツアーでした。参考文献では、もっと詳しく壮大な宇宙が語られているのでオススメ。宇宙に惹かれて天体望遠鏡の購入も考えたが、住宅地でそんなもの覗いていたら警察呼ばれそうなのでやめた。夏になったらどこかへ天体観測に行きたい。

 

○参考文献

国立科学博物館-宇宙の質問箱

 

質問5-8)惑星の定義とは? | 国立天文台(NAOJ)

 

No.241: 冥王星の小惑星番号と 2003 UB313 の名称 | 国立天文台(NAOJ)

 

職場のあんぜんサイト:化学物質: メタン

 

職場のあんぜんサイト:化学物質:窒素

 

NHK「コズミックフロント」制作班、緑慎也 『太陽系の謎を解く―惑星たちの新しい履歴書―』 | 新潮社

→NHKの番組を書籍化しているようで、所々ドキュメンタリーみたいでおもしろかった。宇宙にあまり興味ない人でも読み物として楽しめると思う。

 

宇宙の図鑑 | 株式会社誠文堂新光社

→写真や図が多くぺらぺらめくるだけで楽しい。短文で紹介されているので読みやすいが、私のような天文素人には内容が難しい。この本で興味をもった項目を深堀していくのが楽しいかもしれない。